騒音のない世界で本を読む

児童文学好きの読書日記

クズ夫の妻たるもの

ヴィヨンの妻  太宰治 著

私はとくに太宰のファンというわけではないので

太宰といって思い浮かぶのは、

人間失格」「走れメロス」「斜陽」くらいである。

3作品とも確かに本を読んだのだが、内容を覚えていない。

どういう話だったっけ?

「斜陽」は 読後に ”好きだなこれ”  と思った記憶はあるのだが

ストーリーが全然思い出せない。

私は多分、太宰の世界がよくわからない。

           

 

だけど「ヴィヨンの妻」、タイトルの“ヴィヨン”に惹かれた。

ヴィヨンとはなんぞや、

ちょっと童話っぽいとワクワク読んでみれば

まったくの見当違い、クズ夫とその妻の話だった。

そして初見ではなく、

過去にもやっぱり“ヴィヨン“に惹かれて読んだのを思い出した。

 

職業が詩人というだけでも不安になってしまうが、

このクズ夫、暴力こそ振るわないものの、

酒と女にだらしなく、金を盗む。

家にも帰らず、金も入れず、こどもに愛情もない。

死にたくて仕方がない、生まれた時から死ぬことばかり考えている。

 

そんな夫が作った借金を返済するために働きに出る妻。

妻といっても戸籍上は他人の事実婚だ。

借金返済のためとはいえ、

働くことが楽しくてそこに幸せを見出した妻に

女には幸福も不幸もないと言う夫。

 

この台詞に私はぞっとして、

こんな男のどこがいいのだ、籍も入っていないのだし、

さっさと見切りをつけて別れてしまえばいいと思ったが

かの妻は、そう言われるとそんな気もすると言う。

 

ヴィヨンの妻を男目線で評価すれば、

夫に尽くす妻、健気な妻、立派な妻というところか。

事実は、男に都合のいい内縁の女にすぎないわけだが。

 

しかしそんな事実もヴィヨンの妻にとっては取るに足らないことのようで、

人非人でもいい、生きていさえすればいいと言う。

達観してるのか、諦めてるのか。

その域に達していれば、

どんなクズ夫でもかまわないだろうが、

果たしてそれでいいのか。

 

映画化されたらしいこの作品。

やっぱり太宰は、よくわからない。