騒音のない世界で本を読む

児童文学好きの読書日記

人形の存在

りかさん   梨木香歩 著 

―ひな祭りのプレゼントにリカちゃん人形をリクエストしたら

おばあちゃんから送られてきたのは市松人形のりかさんだった―

 

確かにどちらも人形であるし、

同じ名前だから間違ってはないけれど

期待していたプレゼントとはずいぶん違う。

箱を開けた時のようこの消沈は、推して知るべしだ。

だけどこのりかさん、そこらの人形とは格が違う。

ようこも後に言う。

「りかさんは、世界中のどのリカちゃん人形よりいちばんいいりかさん」

 

 

物言わぬ人形と表現されるが

このりかさんは喋る。

厳密に言うと“喋る”わけではないけど、

ようことおばあちゃんとりかさんはとっても仲良しだ。

そして、この物語に登場する人形たちも

長い年月、見たもの聞いたものを多分に語りかけてくる。

 

なかでもアビゲイルの話は、胸が痛くなり読む度に涙がでる。

アビゲイル―青い目の人形、アメリカからきた親善大使。

人形に罪はないのに、

アメリカから来たからと槍で突き、燃やす残虐な人間。

 

りかさんを通して語られる人形たち記憶に

人間の残酷さ、業の深さが垣間見える。

人間の業や欲を吸い取って浄化することが人形の使命なのだとしたら

人形の視線を感じるのも、

人形を見て怖いと思うのも当然なのかもしれない。

深い闇を背負った人形の眼差しに

人間の、自分の闇を見つけて目を背けたくなるのだ。

 

反対に人形は、心のよりどころにもなる。

子どもにとっては、生身の人間と変わらない友であるし、

人形遊びこそしないけれど

つい人形やぬいぐるみに話しかけてしまう大人もいる。

人形は、自分を映す鏡でもあり分身でもあり友でもあるようだ。

 

だからだろうか、人形をポイと簡単に捨てられないのは。

人形を供養するお寺があるように

誰しも人形を捨てるのは、心が痛む。

元は、布や土、プラスティックで作られたそこら辺にある物と

なんら変わりないのに

人型になったとたん‘生き物’になってしまう。

そこに魂が宿ってる気がする。

私は、人間は嫌いだが人形は好きだ。

人間が嫌いな理由は、沢山挙げられるけど

人形が好きな理由は、実は自分でもよくわかってない。

人間とは極力関わりたくないが

人形は、そばに欲しいと思っている。

 

でも人形なら何でもいいというわけではなく、

叶うなら、りかさんがいい。

凛として涼やかな風のようなりかさんなら

まともに人間関係を築けない、

自分をこじらせまくってる私でも受け入れてくれる気がする。

横浜に「横浜人形の家」という人形の美術館がある。

私は、過去に年パスを持ってたこともあるくらい

この美術館が好きで家から遠いにも関わらずよく行った。

当時、青い目の人形の展示があって

それを見る度にアビゲイルのことを思い出して胸が痛くなり、

アビゲイルの物語を読む度にこの美術館を思い出し、

と、私の中で両者がリンクしていた。

久しく行ってないので無職の暇なうちに行こうかな。

 

横浜人形の家 https://www.doll-museum.jp/