アンジュール ある犬の物語
ガブリエル・バンサン
鉛筆でさらっと描かれた下書きのような絵だけの絵本。
文章はない。
初めて本屋で見かけたときはびっくりした。
これで出版できるの?って。
こんなラフな絵で? 下書きのままで?って。
でも手にとってちょっとパラパラめくっただけで
これは絶対買わなきゃいけないやつ!と思った。
ある日、走る車から投げ捨てられた犬。
必死でその車を追いかける。
「ぼくを置いてかないで! ねえお願い、待って待って!!」と爆走する。
その必死さが鉛筆で描かれたデッサンからひしひし伝わってきてうるうるする。
「お願い、待って待ってよー!!!!」
どんなに必死に走っても車に追いつけるわけもなく。
自分を車から投げ捨てるような非情な人間でも犬にとっては大事な家族なのだ。
その家族を探してさまよう犬の描写にまた涙が出る。
捨てられても裏切られても飼い主を求める。
だけど、どこにもいない。
そしてついに諦める。
諦めてあてもなく目的もなく、ただ、さまよう犬。
海を見つめ、空を仰ぎ、何を思っているのだろう。
遠い町並みを眺める犬の背中が淋しくて愛おしくてたまらなくなる。
鉛筆1本で描かれたデッサンだけの絵本。
文章もなくシンプルだからこそだろうか。沁み沁みと心に響いてくる。
犬好きだからかもしれないがこの鉛筆で描かれた犬を抱きしめたくなる。