騒音のない世界で本を読む

児童文学好きの読書日記

ただ、淋しくて悲しい

赤いろうそくと人魚 小川未明 

 

アンデルセンの人魚姫は悲恋の物語だが

王子とその花嫁の幸せな結婚という明るい要素と

恋は叶わなかったけれど

自己犠牲を尽くした人魚姫が永遠の魂を得るという救いがあるから

ハッピーエンドとも言えなくもない。

だがこの小川未明の人魚の物語は、どうだ。

最初から最後までどんよりと重くて淋しくて全く救いがない。

 

 

冷たく暗い気の滅入りそうな北の海で暮らすよりも

この世界の中で一番やさしいものだと聞く

人間の元で暮らした方が幸せになれるだろうと

陸に娘を産み落とした人魚。

 

神様から授けられた子どもだからと

人魚の赤ん坊を大事に育てる、ろうそく屋の老夫婦。

だけど大金を目の前にして人が変わったようになり

娘を香具師に売ってしまうなんて、

何年も大事に育てた娘に情は湧かないのだろうか。

娘のお陰でろうそく屋が繁盛したことに感謝はないのだろうか。

 

育ててもらったことにひたすら感謝して

その恩に報いたいと手の痛みも我慢して

一生懸命ろうそくに絵を描いていた人畜無害な人魚の娘は、

売られて船に乗せられて・・その後どうなっただろう。

人魚だから船が転覆しても助かりそうな気がするが。

                 

残忍な老夫婦に憤りを感じるのはもちろんだが

それよりも母親人魚の悲しみと怒りに胸が痛くなる。

娘の幸せを願って人間の元にやったのに

それが裏目に出て娘を不幸に追いやってしまった。

自分のしたことをどれだけ悔やんだだろう。

そして人間をどれだけ憎んだだろう。

その憎しみは、老夫婦の暮らす町を亡ぼしてしまうほど激しい。

 

町を亡ぼして悲しみは、癒えただろうか。

憎しみは消えただろうか。

苦しさから解放されただろうか。

ほんのちょっとでも

母親人魚の心が救われれば胸のつかえがおりるのだが

暗く冷たい北の海の中で

ずーっと一人で泣いているような気がしてよりいっそう胸が痛くなる。