騒音のない世界で本を読む

児童文学好きの読書日記

自分だけの世界がほしい

誰も知らない小さな国 コロボックル物語

佐藤さとる著  村上勉

                

小人の物語の定番、セオリーと言えば

小人の敵と味方の攻防を描いた物語だろう。

小人の味方となるのは、たいてい子供で

敵は大人、小人で金儲けしようとする人や

小人の世界を壊そうとする人。

 

この物語もそんなセオリーどおりと言える。

子供のころに出会ったコロボックルの存在を信じて

大人になったせいたかさんが

コロボックルを守ろうとする物語。

だけどそれは物語の外枠にすぎない。

                

この物語が教えてくれるのは

自分の心の中にある世界、

誰にも邪魔されない

自分だけの世界を持っていることが

とても大事ということ。

 

自分だけの国、

心の中にある誰にも侵されることのない世界。

 

自分の国を持っている人とは

信念がある人とも言える。

確固たる信念がある人は、他者に優しくて強い。

ちょっとやそっとじゃ折れない、

めげない、潰れない。

せいたかさんとおちびさんのように。

               

自分探しの旅、

本当の自分を探す旅とか言って

思春期をこじらせて旅に出る人がいるが

それは結局、

自分だけの国を見つけたいってことだろう。

世界のどこかに

安住の地があると信じて旅に出るのだ。

旅に出る行動力がある人は、ましかもしれない。

見つかればそれでいいし、

見つからなくても旅に出た自分に満足できそうだ。

 

私なんぞは、

旅にも出れなくて、

思春期をこじらせて大人になった

一番厄介で面倒くさい人間だ。

自分だけの国は、

自分の中にあると知ってもなお

見つけられず、鬱々と生きている。

 

どうやったらその国へ扉が開くのだろう。

扉の鍵はどこにあるのだろう。

人生も終わりに近づいてきたので

そろそろその屈強な扉を向こう側から

開いてくれてもいいんじゃないかと思うのだが。

 

もう自力では見つけられそうにないから

小さな黒い影が目の端をかすめる時、

(老化による飛蚊症だが)

コロボックルだよね!と願うようになった。

コロボックルに出会えたら

自分だけの国が見つかる気がするから。

コロボックルが存在しないとは

証明できないし、

都市伝説の小さいおじさんも

実はコロボックルかもしれないのだ。

              

子供のころは、

単純に面白いから好きな本だったけど

50才を過ぎて読んでみて

小難しい心理学の本よりも

シンプルに楽しく

メンタルのあり方を学べる本だと気づいて

初版から60年以上経っても愛される理由を

遅すぎるくらい今更にしみじみと感じている。